医療法人を設立し、診療所の運営が順調に行き、診療所自体手狭になったので、近隣に移転したいとお思いになることもあるかもしれません。
また、実際に移転をお考えの方もいらっしゃるかもしれません。
ただ、診療所の移転には注意点があります。
それでは、どのような注意点があるのか、またどのような手続きが必要なのかを以下でご説明いたしますので、確認してみましょう。
【診療所を移転する際の注意点】
移転前の診療所が保険医療機関であった場合に、移転先の診療所ももちろん保険医療機関でとお考えになるかと思います。
保険医療機関の指定日は特に希望が無ければ毎月1日ですが、この指定日に間に合わせるには、保険医療機関の指定申請を前月の締切日までに申し込まなければなりません。 各都道府県によって、この締切日は異なりますが、だいたい毎月15日前後です。 ですので、移転前の診療所を閉めて、翌日にすぐ移転先の診療所で開業しても、翌月の1日までは半月程度保険診療出来ない期間が発生してしまいます。 半月とは言え、保険診療出来ないのは、診療所としても患者様にとっても大きな問題かと思います。 ただ、これはあくまで原則的な保険医療機関の指定申請の取扱いです。 診療所の移転で、例外的に遡及が認められることがあります。 その条件は次のとおりです。
つまり、移転前で診療を受けていた患者様が、移転先でも引き続き診療を受けるといった場合には、保険医療機関の指定日を遡及することが可能ですよ、ということです。 それでは、この「至近の距離」とは一体どの程度の距離なのでしょうか? 答えは「2㎞以内」です。 移転前に診療を受けていた患者様の徒歩による生活圏の範囲内に移転先の診療所があれば、引き続き患者様は診療を受けることが出来るだろうと想定される距離が「2㎞以内」とされています。 以上を踏まえまして、要約しますと、2㎞以内の移転であれば、移転前から移転先へ滞りなく保険診療を行うことが出来ますので、診療所の移転をお考えの際には、移転前と移転先の距離も考慮に入れてお考えいただくと良いでしょう。 |
【診療所を移転する際の手続き】
診療所を移転するということは、移転先の診療所の「開設」と移転前の診療所の「廃止」の二つの手続きを行わなければなりません。
それではどのような手続きを行っていけばよいか、以下で流れを説明いたしますので、確認してみましょう。
(1) 東京都に「定款の変更認可申請」を行います。 診療所の開設や廃止は、登記事項でもあるのでということで、直ぐに診療所移転の登記をとお考えかもしれませんが、まずは、東京都に変更を認めてもらう手続をしなくてはなりません。 それが、「定款の変更認可申請」となります。 簡単な流れは次のとおりです。
以上ですが、この「本申請」から「認可書」の受領までは、東京都の審査等の期間で2ヶ月から3か月程度の時間を要します。 ですので、仮申請等のことも考えれば、実際に移転先の診療所を開設する4カ月ほど前には、申請の準備をしておく必要がございます。 診療所Aで考えるならば、3月中には東京都に「定款の変更認可申請」を行うと良いでしょう。 (2) 最寄りの保健所に「診療所開設許可申請」を行います。 「診療所開設許可申請」は、診療所開設15日前までに最寄りの保健所に申請しなければなりません。 こちらも日程に余裕をもって考えるのであれば、5/15頃から申請準備に取り掛かると良いでしょう。 (3) 移転前の診療所を6/30に廃止し、移転先の診療所を7/1に開設します。 (4) 最寄りの保健所に「診療所廃止届」と「診療所開設届」を同時に行います。 「診療所廃止届」は、移転前の診療所を廃止した日から10日以内に提出しなければなりません。 「診療所開設届」は、移転先の診療所を開設した日から10日以内に提出しなければなりません。 移転前の廃止と移転先の開設との間は日を開けていないので、開設後に速やかに「診療所廃止届」と「診療所開設届」を行えば、二度手間を防ぐことが出来ます。 (5) 最寄りの法務局に診療所の移転登記を申請します。 移転登記は開設後2週間以内に行わなければなりませんので、(4)と同時期に行うことになります。 (6) 関東信越厚生局東京事務所に「保険医療機関廃止届」と「保険医療機関指定申請」を同時に行います。 こちらの手続きの添付書類に(4)の届出の受付印のある書類の写しが必要となりますので、(4)の手続きの後に行います。 2㎞以内の移転で、保険医療機関の遡及措置はありますので「保険医療機関指定申請」は締切日を気にせず行うことは出来ますが、速やかに廃止届ともに申請を行うのが良いでしょう。 (7) 東京都に「医療法人の登記事項の届出」を行います。 こちらの手続きは、(5)で取得する新しい「登記事項証明書」が必要となりますので、(5)の手続きの後に行うことになります。 |
以上が、診療所を移転する際の手続きの流れです。
東京都を例に致しましたが、各道府県によっては、申請や届出名が異なることもございますので、東京都以外の場合には、事前に確認しておくのが良いでしょう。